109回歯科医師国家試験で、リドカインの作用に関する少しマニアックな問題が出ました。自分で解いてみて見事に間違ってしまったのですが、確かに3年次のときに習ったよなーと、図も書いた覚えがあるのに、、、ベーシックなところを再度おさらいしましょう。
109C-129
リドカイン塩酸塩(イオン型⇄非イオン型)の作用機序の模式図を別に示す。
正しいのはどれか。1つ選べ。
正答 ア
リドカイン、局所麻酔薬は歯科治療に最も重要な薬といってもよいでしょう。薬の機序的にはナトリウムイオンチャネルを阻害し、痛みの刺激が伝わるのを抑制する、というもので、これは誰もが知っていることだと思います。では、どのように阻害するのか、もう少し詳しいところが問われた問題でした。
閉じている状態でくっついているのか、開いた状態でくっついているのか、をまず知らないと行けないですし、細胞質のほうからくっつくのか、外からなのか、というようなことも求められています。あとは膜を通過するときの型ですね。
電位依存型Na+チャネルの3状態
まずは、基本をおさらいしておきましょう。局所麻酔薬で阻害するナトリウムイオンチャネルは以下の図のように3つの状態があります。
- 静止状態
- 開口状態
- 不活化状態
通常は静止状態で、Na+イオンの出入りはありません。細胞質で濃度が高いK+が少しずつ細胞外へ漏れ出ているので、これで、静止膜電位 約-70mVができています。
刺激を受けた時に、イオンチャネルは開口状態となり、Na+流入→脱分極となり、活動電位が発生します。その興奮が、次々と伝わっていくことで、中枢側へ伝わっていきます。刺激の伝導とは、つまり、隣のイオンチャネルをバカバカと開けていくことなのです。
不活化状態の意味とは?
ポイントは「不活化」状態があることでしょうか。なんとなくオンとオフ(開口と静止)があればいいじゃね?と思いがちですが、不活化の状態というのは、「不応期」になっていて、どんなに刺激しても開口しない状態です。そういう時間ができるようにあえてシステムが組まれています。
活動電位の発生には閾値があることで、ノイズ的な小さな刺激には反応しないようになっていることはご存知だと思いますが、これは、本当に意味のある興奮だけを伝えるためです。
不応期がないとすると、過分極から、だんだん膜電位が下がっていき脱分極になる過程で、ノイズ的などーでもいい小さな刺激があってもそれでまた活動電位が発生してしまうことになります。きっちりとした興奮伝導の交通整理のために不活化状態があるということです。
ちなみにNa+イオン流入で、電位差が生じるのは膜近くのほんの表層の部分のみです。「膜電位」といいますよね。けして細胞全体の電位が変わっているわけではなく、膜の局所的な電位だけが反転しているのです。Na+流入後、不活化になったとたんに、高濃度のNa+イオンは、その背後に控える大量の細胞質(Na+少なく、K+がすごく多い)に薄められて、とたんにまた静止膜電位となります。
Na+流入のあとは、Na-KポンプでNaを全部外に出しきるまで、電位差が戻らないのでは?とか考えたことあるんですが、実際の細胞やイオンチャネルのスケール感を考えるとなるほどと言った感じです。
リドカインは「開口」状態の時に結合する
さて、本題のリドカインの作用についてですが、以下の図のようになります。
リドカインは開口状態の時に、イオンチャネルと結合します。これは「痛みの抑制」という観点からは非常に適切な性質です。なぜなら、痛みが発生するときはそこらじゅうのNa+チャネルが開きまくって興奮しているわけです。ここの状態の時に、特異的に結合できるということは、まさに抑えたい痛みを止めるのに、ピッタリです。さらに、静止状態にある他の普通のNa+チャネルなどには害を及ぼさないということがよいですね。痛いところにカチッと効いていく、というのはすごくよくできているなーと思います。
ちなみにフグ毒などのテトロドトキシンは静止、開口、状態に関係なく、細胞の外から蓋をするようにイオンチャネルを阻害していきます。手当たり次第、Na+チャネルを止めてしますので、呼吸抑制まで引き起こし死にいたらしめることもあります。
リドカインは「不活化」状態をずっとキープする働き。
最初に話した不活化状態。開口してからわずか0.5ミリ秒後には不活化状態になるわけですが、リドカインはこの状態をキープする働きがあります。つまりどんな刺激が来ても反応しない、不応期を持続させているような状態です。
細胞内外のpHとリドカインとの関係
細胞膜は非イオン型=疎水性でないと通ることはできません。細胞膜がリン脂質二重膜、つまり油の膜でできているので、水溶性のものは弾かれてしまいます。リドカインも非イオン型になって、細胞膜を通過します。
リドカインは、弱塩基性の薬物です。つまり、周りが塩基性の時に非イオン型になり、細胞質を通りやすく、効果を発揮しやすくなります。逆に、炎症が起きている急性期などは組織が酸性に傾くので、リドカイン、局所麻酔薬はイオン型が多くなり、細胞膜を通過することができず、麻酔が効きづらくなってしまいます。
細胞質の外は、pH7.4です。中はpH6.8〜7.4で少し酸性に傾いており、つまり外よりはH+が少し多い状態です。つまり、一度、細胞膜をくぐってしまうと、イオン型になりやすくなり、外にでにくくなります。イオンチャネルと結合しているときはイオン型でも効果を発揮できるので、これは好都合です。つくづく、よくできているなーと感心させられます。
心が動いた時、それが、知識の定着の時
今回は、調べていく中で、「よくできているなー」と何度も感心するポイントがありました。淡白な文字の羅列、情報の羅列だけで知識を摂取している間は、単純作業でなかなか覚えずらい感じなんですが、今回のように少しでも「なるほど!」とか、感動するポイントがあるとその事柄はずっと覚えていることができます。無味乾燥なつまらない荒れ地の中を進んでいくような勉強かもしれませんが、その中で如何に感動できるポイントを見出していけるかということも勉強の秘訣の一つかもしれません。
高杉晋作
「おもしろき こともなき世を おもしろく すみなしものは 心なりけり」
今回は以上です。
いつも拝見しています!きっと打ち間違いだと思うのですが、この問題の正答はaではないでしょうか。おせっかいでしたらすいません汗
はい、ご指摘ありがとうございます。本当ですね、、、正答aでしたね。(^_^;)
すいませんでした。訂正しておきました。いつも見て頂きありがとうございます。