まぎらわしい!「隔壁」は、3つあります。
隔壁には大きく以下の3種類があります。名前をつけた人を本当に恨みます。これが本当にややこしい。隔壁の3種類については、明確に覚えておきましょう。
- 保存修復|歯を削るときに隣の歯を傷つけないようにする壁=隔壁
- 保存修復|削った後CR充填しやすいように周りを取り囲む壁=隔壁
- 歯内療法|削りすぎてラバーダムできない歯質にCRで盛って作る壁=隔壁
1.保存修復|歯を削るときに隣の歯を傷つけないようにする壁=隔壁
2.保存修復|削った後CR充填しやすいように周りを取り囲む壁=隔壁
保存修復学21 第3版 2008 田上順次他 永末書店 より
3.歯内療法|削りすぎてラバーダムできない歯質にCRで盛って作る壁=隔壁
上の3つの写真は、目的が違うものですが、どれも「隔壁」という名前が付けられています。
1.歯を削る時(保存修復法)の隔壁
隣接面を削るときに、隣の歯を削らないように引いておくカバーを隔壁と呼ぶことがあります。隣接歯面の切削被害を防止したり歯周組織を損傷したりしないことが目的です。
2.充填する時(修復法)の隔壁
充填のときの隔壁は、CRを盛りやすくするために壁を立てることです。これにより、
- 接触点の回復ができる
- 隣接面の形を作りやすくする
ことが可能になります。難しい言葉を使うと複雑窩洞を単純化して材料の填塞や圧縮などの操作を容易にし形態付与をしやすくし、填塞された材料の強度が保たれるようになります。
保存修復学21 第3版 2008 田上順次他 永末書店 より
接触点の回復は、歯間離開をすることも重要になります。以下の図をみるとわかりやすいかもしれません。
歯間離開についてこちらの記事も読んでみて下さい。
「プレウェッジ」と「ウェッジ」
http://www.kokushi.space/?p=1131
充填の隔壁法で使う道具が超重要
充填時の隔壁法では、使う道具にいくつか種類があり、名前とモノを頭のなかで一致させておく必要があります。正確に細かいところまでイメージできるようにならないと国家試験ででつまずくことになります。以下の3つのポイントが重要です。
- 透明フィルム(前歯部用)か、金属のフィルム(臼歯部用)か
- フィルムを押さえるのは何か|指、トッフルマイヤー、リング状リテーナー、アイボリー/エリオットのセパレーター
- 歯間離開は何でやっているか|ウェッジ、リング状リテーナ、
具体的には、大まかに以下の5種類を押さえておけばよいでしょう。どれも充填用の隔壁法です。フィルムを保持し歯間離開するために何が使われているのか。そして、そのことによって「接触点の回復」「隣接面の携帯が作りやすく」なっていることもイメージしながら…
- ストリップス(透明な帯のフィルム=前歯部の充填で多い)
- トッフルマイヤー型(古典的で強固)
- セクショナルマトリックス(セクショナルバンド)型|リング状リテーナーで保持
- セクショナルマトリックス型|アイボリー/エリオットのセパレーターで保持
- オートマトリックス、Tバンド(バンドだけで結べて、保持の器具がいらない)
1.ストリップス(透明な帯のフィルム=前歯部の充填で多い)
2.トッフルマイヤー型(古典的で強固)
保存修復学第5版-2007-平井義人-他-医歯薬出版
3.セクショナルマトリックス(セクショナルバンド)型|リング状リテーナーで保持(製品名:バイタインリング)
金属製ではなく、透明なセクショルマトリックス、透明なリング状リテーナー、透明なウェッジ(光導型ウェッジ)もあります。それらは光を透過するのでレジン光重合がさらに強固にできる様になっています。
4.セクショナルマトリックス型|アイボリーのセパレーターで保持+ウェッジで歯間分離
保存修復学21-第3版-2008-田上順次-他-永末書店
5.オートマトリックス
保存修復学21 第3版 2008 田上順次他 永末書店 より
セルロイドストリップスは前歯!セクショナルマトリックスは臼歯!
このような細かいところをつかれることがあります。セルロイドストリップスは透明なフィルムのことです。レジンを光重合するときに、光が透過するので便利です。主に前歯部で使用します。一方、臼歯部は金属のフィルムを使うことが多いです。臨床では、臼歯部でも透明のフィルムと透明なウェッジや透明なリング状リテーナーなど使って治療すること多いですが、国家試験的にはまだ出てきていません。透明なウェッジのことを「光導型ウェッジ」と呼びます。
次のうち前歯部のCR修復に使うものはどれか。すべて選べ。
- セクショナルマトリックス
- サービカルマトリックス
- アイボリー型リテーナー
- セルロイドストリップス
- エリオット型リテーナー
- トッフルマイヤー型リテーナー
正答 2, 3, 4, 5(エリオットは主に臼歯部ですが、前歯部でも使用可能です)
3.根管治療の時(歯内療法)の隔壁
根管治療のときに「隔壁」といったら「根管に唾液が入らないように、きれいに保つため」に行います。具体的には、虫歯が進んで歯冠が殆ど残ってない時、細菌感染(コロナルリーケージ)を起こさないように、歯の周囲に壁を作ることによって、ラバーダム防湿を可能にすることが目的です。そう、根管治療の隔壁は誰のためにやるのかというと「ラバーダム」様のためにやるのです。
追加で、周りに強固な壁をつくってあげて、歯質を一次的に回復したような状態にしておくことで、仮封材の封鎖性も高くなります。術後、次の処置までの仮封剤をボロボロの歯冠に使っても弱いのですぐ壊れてしまいます。CRで強固な壁を作って、ちょこっと蓋をしてあげることで、仮封が強固になります。
関連する過去問を解いてみよう
104B-43
45歳の男性。下顎左側第一大臼歯の咬合痛を主訴として来院した。感染根管治療を行うこととした。 クラウンと感染象牙質を除去した後の口腔内写真と感染根管治療開始日の口腔内写真とを別に示す。
感染根管治療開始前に行った処置の目的はどれか。2つ選べ。
a 歯質の保存
b 咬合の維持
c 仮封の強化
d 審美性の回復
e 術野の汚染防止
正答 c, e
「仮封の強化」が答えづらいですが、 C4ぐらいのボロボロの歯冠に仮封剤を強引に使っても弱いのですぐ壊れてしまいます。すると根管が細菌に汚染されてしまいます。そこで、CRで強固な壁を作って(隔壁の形成)、ちょこっと仮封剤で蓋をしてあげることで封鎖性が強固になります。
105D-9
26歳の女性。上顎左側小臼歯部の食片圧入を主訴として来院した。上顎左側5に自発痛はなく,歯髄電気診に反応する。コンポジットレジン修復を行うこととした。初診時の口腔内写真とエックス線写真とを別に示す。爾窩の開拡にあたって必要な前準備はどれか。2つ選べ。
a 隔壁
b 咬合調整
c 歯肉圧排
d 歯間分離
e ラバーダム防湿正答 d e
ややこしいですが、削るときの隔壁も必要な気がします。でも、それ以上に「ラバーダム」は必須ですし、歯間離開は絶対的に重要です。その上でさらに削らないように隔壁を立てると安全になりますが、必須ではありません。3つ選べであれば、a, d, eが正答になっていたでしょう。
106B-4
36歳の女性。上顎左側臼歯の冷水痛を主訴として来院した。上顎左側5にコンポジットレジン修復を行うこととした。初診時の口腔内写真、エックス線写真及びう蝕除去中の口腔内写真を別に示す。
矢印で示す器具の使用目的はどれか。1つ選べ。a 隔壁
b 防湿
c 歯問離開
d 歯肉排除
e 隣接歯保護正答 e
この問題で、Cの写真に使われているのが、歯を削る時にでてくる隔壁です。問題を解く上では関係ないですが、この銀色のフィルムで歯を削る時に隣の歯を削ってしまわないようにガードしています。このガードのことを「隔壁」とも呼びます。問題では「目的」を聞かれているので、隣接歯保護が正答ですが、名前を聞かれたら、隔壁が答えにもなります。
93B-18
隔壁法におけるクサビ使用の目的で正しいのはどれか。2つ選べ。a 歯間部の歯肉を圧排する。
b マトリックスバンドを圧接する。
c 接触点に間隙が生じるのを防ぐ。
d 辺縁隆線部の形成を容易にする。
e 複雑窩洞を単純窩洞化する。正答 b c
bはこれまでの説明ですぐ理解できるかと思います。もう一つは、きっと「歯間離開」の効果について選べばいいんですが、cの「接触点に間隙が生じるのを防ぐ」というのがわかりずらいです。「接触点をきちんと作るためにやるものなのに、、、、」と思っちゃいますが、昔の問題なので、日本語がちょっとややこしい表現になっています。
要は、隔壁を使用して、歯間離開しないままだとその隔壁のフィルム厚さ分、歯間が空いてしまうということです。それを、ウェッジなりセパレーターなりをいれて歯間離開をすることで、そのスペースを利用してフィルムの厚さ分だけ多くもれるので、歯間離開を戻した時にピッタリと接触する形を作れるでしょうということです。もっと、隣接面の形の付与がし易いとか接触点の回復が可能とか、書いてくれればいいんですけどね。これからの国家試験ではこのあたりの分かりづらい表現に関してはブラフュアップがしっかりとかかっていくようになっているので、このような形で難しくなることは殆ど起きないとは思います。
今回は以上です。
【保存修復学】のお薦め参考書
1.保存修復学21 ★★★
「医歯薬出版の保存修復学」と上の「保存修復学21」が2大巨塔ですが、僕は上にもリンク貼ってる「保存修復学21」をおすすめします。理由は写真が大きいからです。あとは診断や手技などのまとめからも21のシリーズのほうが、読んでいてわかりやすいです。「医歯薬出版の保存修復学」は網羅的に書いてありますが、写真や図が小さく文章で理解する割合がより多い印象を受けます。勉強が進んできてだいたいのことがわかってくると、こちらのほうが面白く感じてくるのですが、最初の段階では「保存修復学21」を携えて勉強したほうがよりわかりやすく学ぶことができると感じています。
編集仕方というか、ページのまとめ方や文字と写真、イラストの並べ方など「保存修復学21」のほうが読んでいて非常にわかりやすくできていると思います。歯内療法でも同じ構造で、医歯薬出版のものよりも、21シリーズのほうが僕はわかりやすいです。この本が教科書に指定されている学校はうらやましいなーと思います。
2.カラーアトラスハンドブック 保存修復臨床ヒント集 ★★☆
臨床問題を得意になるコツは、基本的な処置や考え方などを1.にあげたような教科書の内容を一通り読んでから、あとは、臨床の処置の写真をとにかく見て、知らない器具や処置の種類を減らすことです。
このカラーアトラスハンドブックシリーズは少し古いのですが、それでも基本的な処置に関してはかなりリアリティつかめるのでおすすめです。特に文章読むのが苦手で、、、という人は暇な時にパラパラめくっておくだけでも、すごくためになると思いますよ。
もちろん、5,6年次の臨書実習のリアルな処置と教科書の内容を自分で紐付けることは非常に重要です。教科書は、臨書実習の具体的な処置内容をまとめてより抽象的に、学術的にまとめたものです。机上の勉強ではそれらをつかむだけなのでなんとなく体感がなくぼんやりとした理解ですが、その文章化された診断や治療内容を具体的なやり方・道具、手順などを実際の体験と紐付けることでより深い理解になります。そうすると国家試験のやったことない臨床問題でも、頭のなかでイメージして、正解に自分でたどり着けることが多くなります。
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